「ちょっとした血液検査で“大腸がんの可能性”がわかるって聞いたけど、実際どうなの?」
そんな疑問を抱える方は多いかもしれません。家族や友人の健康の話になり、「検診は受けた方が良い」と言われるけど、便の検査や内視鏡はハードルが高い。そこで「血液検査だけで済むなら楽だし…」と思う人もいるでしょう。でも、便利な検査方法であるほど、「どこまで信頼できるか」「初期でも見つかるのか」は慎重に知っておく必要があります。今回は、「初期の大腸がんは血液検査で本当にわかるのか?」を、最新の研究や実際の検診制度などをふまえながら、わかりやすく解説します。
目次
- なぜ血液検査で「大腸がん?」と聞かれるようになったか
- 血液検査で使われるマーカーと、その限界
- 現時点で推奨される「がん検診の王道」
- 血液検査だけに頼るのは危険?
- まとめ:血液検査は“補助”に。大腸がん検診は慎重に
1. 血液検査で「大腸癌」は分かるのか
大腸癌は、初期には自覚症状がほとんどないことが多く、定期的な検診がとても重要です。
しかし、主流である検診(便潜血検査や内視鏡検査)は「便を取るのが面倒」「内視鏡が苦手」「忙しくて時間がとれない」などの理由で敬遠されることもあり、受診率が十分とは言えない現状があります。
そうした背景から、「もし血液検査だけで大腸がんのリスクがわかるなら…」というニーズが医療側にも社会側にも高まり、近年、血液中の腫瘍マーカーや新たなバイオマーカーの研究が進んできました。たとえば、従来の腫瘍マーカーだけでなく、新しい血中タンパク質マーカーが発見され、「早期の大腸がん患者と健常者を高い精度で区別できる可能性」が報告されています。また、海外では“血液ベースの癌スクリーニング”として、便検査や内視鏡が受けづらい人の選択肢を広げる試みも進んでいます。血液検査は身体的負担が少なく、採血だけで済むため、検診のハードルを下げられるメリットがあります。
とはいえ、「血液検査だけで大丈夫か?」という慎重な視点も必要です。理由は後述しますが、現時点では血液検査はあくまで“可能性を探る補助的な手段”という位置づけであり、主流の検診方法とは区別されるべきです。
2. 血液検査で使われるマーカーとその限界
現在、大腸癌の血液検査で使われる手法やマーカーには、以下のようなものがあります。

● 従来型マーカー(腫瘍マーカー)
代表的なものに 腫瘍マーカーがあり、過去から大腸がんの診断補助に使われてきました。血中のマーカー値が高いと大腸がんの可能性を示す場合があります。 ただしこの方法の限界は明らかで、早期がんや微小病変、がんになる前のポリープ段階では、血中のマーカー値が上がりにくいことがあります。腫瘍が小さく、血管への浸潤がなければ、血液中にマーカーがほとんど出ないためです。
● 新しいバイオマーカープロテイン(研究段階)
最近では、従来の腫瘍マーカーより感度や特異度が高い可能性のある血中タンパク質マーカーが報告されています。たとえばある研究では、大腸癌組織で発現が増えるタンパク質を血清中に検出することで、健常者とがん患者を高い精度で識別できる可能性が示されました。 このような新しいマーカーの開発は非常に期待されており、将来的には血液検査でのスクリーニングが現実になるかもしれません。
● 現状「血液検査だけ」では初期大腸がんを見逃すリスクがある
根本的な問題として、初期のがんやポリープは血管への浸潤が少ないため、血中マーカーがほとんど出ないことが多く、感度が低いのが現状です。実際、血液ベースのスクリーニングは、便潜血検査や内視鏡検査に比べて “早期病変の検出力” は劣るという報告があります。
また、血液マーカーが陽性でも、必ずしもがんであるとは限らず、偽陽性や炎症、良性疾患で数値が上がる可能性があります。
つまり、血液検査は「検査の入り口として便利」な一方で、「これだけで安心、確定」というにはまだ十分ではない、というのが現状です。
3. 現時点で推奨される「がん検診の王道」
大腸癌の検診においては 大腸内視鏡検査 が最も推奨されます。内視鏡検査では腸内を直接観察でき、小さなポリープや初期がんを見つけてその場で切除・治療につなげることが可能です。これが大腸がん検診における「王道」とされる理由です。
実際、大腸癌は進行するまで自覚症状に乏しいことが多いため、症状が出てから検査をしていては、かなり進んだ状態で見つかるリスクがあります。だからこそ、無症状のうちから定期的に便潜血検査を受け、必要に応じて内視鏡検査を受けることが、死亡リスクの低下につながる最も確実な方法です。
4. 血液検査だけに頼るのは危険?
血液検査が簡便で魅力的に思える一方で、そこに頼りすぎるのはリスクがあります。特に以下のような問題に注意が必要です。
● 初期がん・ポリープを見逃す可能性
血液中にがんマーカーが出るには、がん細胞がある程度大きくなり、血管に侵入している必要があります。初期のがんや、がん化前のポリープでは血中マーカーがほとんど出ないケースが多く、検出力が低くなります。
● 偽陽性・偽陰性の問題
血液マーカーは、がん以外の炎症や良性疾患、組織の変化でも上昇することがあります。そのため、陽性であっても必ずしもがんとは限らず、逆に本当のがんでもマーカーが上がらない場合があります。特に早期がんやポリープでは、後者のケースが多いことが知られています。
● 結果による過信のリスク
血液検査が“簡単だから”と定期健診代わりに使い、便潜血や内視鏡検査を受けずに放置する人もあり得ます。しかし、それでは大腸がんの早期発見・予防という検診の目的が果たせない可能性があります。
5. まとめ:血液検査は“補助”に。大腸がん検診は慎重に。
血液検査は手軽で負担も少なく「大腸癌の可能性」に目を向けるきっかけになります。しかし初期癌やポリープなど早期病変を検出できるとは限らず、偽陰性や偽陽性のリスクもあります。現在、確立された大腸癌検診として最も信頼されているのは、便潜血検査と異常時の内視鏡検査の組み合わせです。大腸癌は無症状のまま進行することが多いため、定期的な検診を続けることが何より大切です。
東京新宿レナクリニックでは、血液検査だけでなく必要に応じて大腸内視鏡検査を組み合わせ、患者さんにとって最適な検診プランをご提案しています。少しでも不安や疑問があれば、お気軽にご相談ください。
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。 青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、 日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2024年東京新宿RENA CLINIC開院。
参考文献
- Wu C, その他. Colorectal cancer screening: are stool and blood based tests good enough? Chinese Clinical Oncology (2024)
- 朝長毅, その他. 従来の大腸がん検診の精度をはるかに凌駕する新しい大腸がん早期診断マーカータンパク質の発見. 国立医薬基盤・健康・栄養研究所 / AMED プレスリリース (2017)
- J.S. Mandel, 他. Screening for colon cancer: A test for occult blood Journal of Medical Screening (1996)

