子供の鼠径ヘルニアとは?脱腸との見分け方と早めの対策

COLUMN コラム

子供の鼠径ヘルニアとは?脱腸との見分け方と早めの対策

投稿日: 2025.09.19 更新日: 2025.09.19

「赤ちゃんのお腹の付け根がポコッと膨らんでる…これって何?」と思ったことありませんか?おむつ替えのときや泣いたとき、立ち上がるときにその“ポコッ”が現れて、寝かせると引っ込む。そんな症状があったら、それは子供の鼠径ヘルニア(脱腸)かもしれません。小児外科でよく遭遇する病気でありながら、親御さんにはあまり馴染みがないため、「大丈夫かな…様子を見てもいいかな?」と迷われる方が多いです。でも、この脱出した腸が戻らなくなる“嵌頓(かんとん)”という緊急状態に陥るリスクがあり、そうなると急いで手術が必要になることも。まずは鼠径ヘルニアって何?というところから見ていきましょう。

目次

  1. 鼠径ヘルニア(脱腸)って何?原因と仕組み

  2. 子供の鼠径ヘルニアの症状・気づくサイン

  3. 嵌頓とは何か?その危険性と見分け方

  4. 手術の時期と治療方法:切開法・腹腔鏡法など

  5. 家でできるケア・予防法とご家族へのアドバイス

1. 鼠径ヘルニア(脱腸)って何?原因と仕組み

子供の鼠径ヘルニアは“脱腸(だっちょう)”とも呼ばれます。正式には「鼠径部ヘルニア」と言い、足の付け根(鼠径部)の付近から、お腹の中の腸などが“袋”(ヘルニア嚢:脱出する部分)を通じて外側に飛び出してくる状態を指します。小児で多くみられるタイプは、胎児期にお腹と鼠径部をつなぐ通路である腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)あるいは内鼠径輪(ないそけいりん)が、生まれる前か後にきちんと閉じなかったことが原因です。これが閉じずに残ると、力がかかった時(泣いたり、いきんだり)に腸の一部がその通路を通って飛び出してしまうのです。性別では男児に多くみられ、女児でも起こりますが女児の場合は“ヌック管”という対応部分が関わることがあります。日本ヘルニア学会などによれば、小児ヘルニアの発症率はおおよそ100人に2〜5人程度、すなわち比較的よくある疾患です。 

このヘルニア嚢がある状態では、常に脱出するわけではなく、“飛び出す/引っ込む”を繰り返すことが多いです。寝ていたら収まる、泣いたりお腹に力を入れたら膨れる、というパターンが典型的です。自然に治ることは非常に稀であり、時間とともに症状がはっきりしてくるので、診断・治療の準備が必要になります。

2. 子供の鼠径ヘルニアの症状・気づくサイン

子供の鼠径ヘルニアの多くは、親御さんが「足の付け根」「股(鼠径部)」や「陰部・性器周り」に“ふくらみ”を見つけることから始まります。具体的には以下のようなサインがあります:

  • 膨隆(ふくらみ)が見える/感じる:泣いたりいきんだり、排便のときなど腹圧が上がることで、鼠径部または陰嚢(男児の場合)や陰部周辺(女児)に柔らかい膨らみが出てくる。平らなとき・寝ているとき・落ち着いているときにはそのふくらみが見えなくなることが多い。
  • 触るとゴムのよう/柔らかい袋の感触:膨らみを触ると、”袋”のように感じることがあり、指で軽く押すと中が戻ることがある。痛みは通常強くない。
  • 痛み・不機嫌さ・泣く:脱出時や引っ込むときに違和感を感じたり、締め付けられるような軽い不快感があったりする場合、子供が泣いたりぐずったりすることがある。だが、普段は無症状なことも多い。
  • 夜間や活動後に目立つ:歩いたり走ったり、遊んだ後、あるいは夜寝るときにお腹に力が入る場面で出やすくなる。赤ちゃん・乳児期には泣いているとき、授乳後などにも。
  • 繰り返し出たり引っ込んだりする:常に膨れているわけではなく、状態が変動することが典型的。親御さんが脱出した状態の写真を撮っておくと診察時に役立つことがあります。

このようなサインが見られたら、小児外科受診を検討すべきです。早めの発見・診察により、リスクを減らすことができます。

3. 嵌頓とは何か?その危険性と見分け方

「嵌頓(かんとん)」とは、ヘルニア(脱出した腸や臓器など)が袋から戻らなくなり、出口で締め付けられてしまう状態を言います。これは緊急事態で、血流障害を伴い、腸が壊死することもあり得ます。赤ちゃんでも子供でも発症する可能性があり、手遅れになると命に関わるリスクがあります。日本小児外科学会ほか各所で、「嵌頓を起こさないために、診断後はなるべく早い時期に手術を検討する」ことが推奨されています。 

嵌頓の見分け方・サイン:

  • 膨らみが急に大きく・硬くなる
  • 膨らんだ部分に赤みが出る・色が変わる
  • その部分を押しても戻らない
  • 子供が痛がる・泣き止まない・機嫌が悪い
  • 吐き気・嘔吐がある・お腹が張ってきた・発熱のような症状が出る

これらのサインがあるときは、すぐに医療機関の受診が必要です。

嵌頓が起きるとなぜ危険か:

腸の血管が締め付けられて血流が悪くなると、腸壁が壊れる(壊死)、場合によっては腸穿孔・腹膜炎を起こす可能性があります。そのため緊急手術が必要となることもあります。脱出→引っ込む⇒問題なし…という経過をたどっていた場合でも、ある日突然嵌頓を起こすことがあります。放置することはリスクが高いです。 

対応策:

嵌頓の疑いがあれば絶対に自己判断で様子を見ず、すぐ小児外科で診てもらう。脱出した状態の写真を撮っておくと診断の助けになることがあります。

4. 手術の時期と治療方法:切開法・腹腔鏡法など

子供の鼠径ヘルニアは、自然に回復する可能性は非常に低いとされており(ほぼ自然治癒しない)、根本的な治療は手術になります。日本ヘルニア学会などでは、診断が確定したら早期に手術をすることが一般的に推奨されています。特に嵌頓を起こしている・繰り返している・症状が明らかになってきている場合は、年齢・体重・健康状態を考慮して早めに手術を行います。 

手術の種類

  • 鼠径部切開法(高位結紮法など):足の付け根(鼠径部)を1〜2cm程度切開して、ヘルニア嚢(腹膜鞘状突起が残って袋状になった部分)を根元で結紮(しばる)し、袋を切り取る方法。シンプルで歴史が長く、傷も比較的小さく、確立された手術法です。
  • 腹腔鏡下手術(LPECなど):臍(おへそ)や小さな穴からカメラ・器具を入れ、腹腔内からヘルニア門を確認し、針や糸で巾着状に縛るように閉じる方法。傷が少なく、整容性が良いのが特徴。反対側にも潜在的なヘルニア孔があれば同時に処置できることがあります。

手術時期の目安

  • 新生児期でも嵌頓のリスクがあれば早期手術が検討されることがあります。
  • 無症状または軽度であれば、生後3〜9か月を目安にする施設が多いです。お子さんの体重や全身状態を考慮して決めます。

入院・麻酔・回復

全身麻酔が一般的に用いられます。手術時間は30分から1時間程度が標準です。術後は創の痛みはありますが、早期に飲食・歩行可能となることが多く、短期入院で済むことが少なくありません。傷のケアや入浴・運動制限などのフォローアップが必要となります。

5. 家でできるケア・予防法とご家族へのアドバイス

手術前でもできる限りのケアや日常で注意したいことがあります。完全に防げるものではありませんが、症状悪化や嵌頓のリスクを下げられる可能性があります。

家庭での工夫

  • 腹圧を上げる状況を避ける:長時間いきむ・泣き続ける・便秘・咳が長引くなど、腹圧が高まる状況を減らすようにする。便秘対策(食物繊維・十分な水分・便が硬くならないように)を心がけましょう。
  • 泣かせすぎない・乳児期のおむつ交換時の注意:おむつ替えの時、抱き上げる時などお腹に負荷がかかる場面を優しく行いましょう。
  • 脱出した状態の写真を撮っておく:膨らんでいるときの見た目を記録しておくと診察時に診断の助けになります。

早めの受診のタイミング

  • 膨らみが硬くなった・戻らなくなった
  • 赤み・発熱・痛みを伴う
  • 吐き気・嘔吐がある
  • 膨らみがだんだん大きくなる

こうした場合は速やかに小児外科を受診してください。

ご家族への心構え

不安になるのは当然ですが、鼠径ヘルニアは小児外科で標準的に治療される疾患であり、適切な手術をすればほとんどの場合に問題なく回復します。傷の大きさ・回復までの期間・術後ケアなどについて事前に医師からきちんと説明を受け、安心できるようにしておきましょう。東京新宿レナクリニックでは提携の病院へご紹介させていただいております。

まとめ

子供の鼠径ヘルニア(脱腸)は、足の付け根の“袋”が残ってしまう先天的な通り道が原因で起こることが多く、泣いたり力を入れたときに膨らみが現れることが典型です。一方で、膨らみが硬くなる、戻らなくなる、赤み・痛み・吐き気などの症状が出る「嵌頓」の状態は緊急性が高く、早急な対応が必要です。治療は自然によくなるものではなく、診断がついたら手術が根本的な治療になります。切開法・腹腔鏡法など複数の方法があり、年齢・体重・症状・家庭の事情をふまえてどの方法が最適かを選ぶことが重要です。親御さんが“いつもと違う”と感じたときには、ためらわずに専門医に相談されることをおすすめします


監修医師   大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。 青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、 日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2024年東京新宿RENA CLINIC開院。

 

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