「足の付け根がなんか膨らんでるけど…押せば戻るし、痛くないし…」
鼠経ヘルニア(脱腸)は、このような症状で気づくことが多い病気です。放っておくとどうなるか知っていますか?
実は、進行すると命に関わる事態になることもあるのが鼠経ヘルニア。自覚症状が軽いため「手術はまだいいかな」と考える方も多いですが、判断を誤ると後悔しかねません。
今回は、手術しないとどうなるのかを医師目線で詳しく解説します。
【目次】
- 鼠経ヘルニアってなに?放置されがちな理由
- 手術しないとどうなる?進行の過程とリスク
- 実際にあった合併症と緊急手術例
- 高齢者は手術しない方がよい?判断ポイント
- まとめ:いつ手術すべき?東京新宿レナクリニックの考え方
1. 鼠経ヘルニアってなに?放置されがちな理由
鼠経ヘルニアとは、腸や脂肪組織が足の付け根(鼠径部)から皮下に飛び出す病気で、「脱腸」とも呼ばれます。
立ったときやお腹に力を入れたときに、足の付け根にぷっくりとしたふくらみが現れ、横になると引っ込むのが特徴です。
痛みが少ないため、「ちょっと違和感があるけど日常生活に支障はない」と思って放置する方も多いです。
しかし鼠経ヘルニアは自然には治りません。時間とともに悪化し、ふくらみが大きくなったり、元に戻りにくくなったりします。
初期段階では「ヘルニアが出たり引っ込んだり」していても、次第に「戻らない」状態に近づいていくことがあります。これが進行のサインです。
放置のリスクを軽く見てしまう理由として、「痛みがない」「昔からあった」「すぐ戻るから問題ない」という思い込みが挙げられます。しかし、これは非常に危険な判断です。
2. 手術しないとどうなる?進行の過程とリスク
鼠経ヘルニアを放置していると、症状が進行して以下のような段階をたどることがあります。
- 初期: ふくらみが出たり戻ったりする
- 中期: 長時間出っぱなしになる/違和感・痛みが増す
- 後期: 押しても戻らない/激しい痛み/吐き気や嘔吐
この中で最も注意すべきなのが、「嵌頓(かんとん)」という状態です。嵌頓とは、飛び出た腸が筋膜に締め付けられて戻らなくなり、血流が止まることで壊死や腸閉塞を起こす非常に危険な合併症です。
米国の外科研究では、放置された鼠経ヘルニアの約27%が5年以内に嵌頓へ進行したとの報告もあります。
また、嵌頓による緊急手術は通常の計画的手術よりも合併症のリスクが高く、入院期間も長引く傾向にあります。
さらに、高齢者では手術の遅れによって重篤な結果を招きやすく、死亡率も上昇すると報告されています。 ヘルニアは「小さいうちに手術したほうが、結果的に安全で、回復も早い」と言われる理由がここにあります。
3. 実際にあった合併症と緊急手術例
医学文献『Neglected Inguinal Hernia Progressing to Strangulation』(Cureus, 2024)では、鼠経ヘルニアを放置していた高齢者が、突然の激しい腹痛と嘔吐で救急搬送された症例が紹介されています。開腹手術の結果、小腸が壊死していたため一部を切除し、長期入院を余儀なくされました。
このように、「今までは戻っていたのに、急に戻らなくなった」「ふくらみが硬く、押しても痛みがある」という状態は要注意です。すでに嵌頓が起きている可能性があります。
また、男性ではヘルニアによって精巣に血流障害が起こり、不妊症につながるケースもあります。女性では、卵巣や子宮が巻き込まれるリスクも指摘されています。
「あと少し様子を見ようかな」という判断で、こうした深刻な合併症が起こり得るという現実を知っておくことが大切です。東京新宿RENA CLINICでは、症状の段階に応じて適切なタイミングでの手術をご提案しています。
4. 高齢者は手術しない方がよい?判断ポイント
高齢者の場合、「手術が怖い」「全身麻酔に耐えられるか不安」という理由で経過観察を選ぶことがあります。
しかし、年齢だけで「手術しない方がよい」とは言い切れません。
近年は局所麻酔での短時間手術が可能なケースも多く、70代・80代でも安全に受けられる方が増えています。
逆に、緊急手術になると体力を消耗し、回復が難しくなるため、むしろ計画的に手術した方が安全な場合も少なくありません。
もちろん、心疾患や呼吸器疾患など、全身状態によっては手術を控える判断がされることもあります。ですがその場合も、定期的な経過観察と正確な診断が非常に重要になります。
5. まとめ:いつ手術すべき?東京新宿レナクリニックの考え方
鼠経ヘルニアは、痛みが少なく、見た目の変化もゆっくり進むため、「まだ様子見でいいかな」と思いがちです。しかし、放置によるリスクは確実に積み重なっていきます。
早期の手術であれば、日帰りや短期入院で済むことも多く、リスクを最小限に抑えることが可能です。 気になるふくらみや違和感がある方は、「そのうち病院に行こう」ではなく、今ご相談ください。
東京新宿RENA CLINICでは、経験豊富な医師が一人ひとりの状態に合わせた診療をご提案しています。
【参考文献】
- Jenkins J.T., O’Dwyer P.J. Evaluating the Natural History of Groin Hernia from an “Unplanned” Watchful Waiting Strategy. Hernia.
- Budhi A.T., Suarno T.F.I., Qurrohman T., et al. Neglected Inguinal Hernia Progressing to Strangulation. Cureus.
- Rai S., Chandra S.S., Smile S.R. A Study of the Risk of Strangulation and Obstruction in Groin Hernias. Aust N Z J Surg.
- Bouaké Univ. Team. *Prognostic Factors of Postoperative Morbidity in Strangulated Hernia. Tropical Surgery Journal.
- [Bakırköy Hospital Study Team]. Risk Factors for Incarceration in Groin Hernia: A Prospective Observational Study. World Journal of Surgery.
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。 青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、 日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2024年東京新宿RENA CLINIC開院。